5. 『おはん』

『おはん』初版の外箱(表)
『おはん』初版の外箱(表)
『おはん』初版の外箱(裏)
『おはん』初版の外箱(裏)
『おはん』に登場する臥竜橋(がりょうばし)(大正6年)
『おはん』に登場する臥竜橋(がりょうばし)(大正6年)
『おはん』に登場する椎尾八幡宮(明治頃)
『おはん』に登場する椎尾八幡宮(明治頃)

雑誌「スタイル」が売れに売れていた頃の昭和22年(1947)12月、スタイル社は文芸季刊誌を発行し、そこに『おはん』の第一回が収録されました。
その後、中央公論で掲載は続き、昭和32年(1957)5月号まで実に10年をかけて作品は完結を迎えています。
千代、50歳から60歳にかけての執筆でした。
『おはん』は、古物屋を営む男が芸者の「おかよ」と、別れた妻の「おはん」との間で心揺れる物語。
千代の故郷・岩国を舞台に料亭の半月庵や椎尾神社、臥竜橋、龍江淵などが登場します。
初版本のあとがきにこのような記述があります。

--この小説に出て来る田舎の街は、私の生まれ故郷の岩国に似ています。或いは子供の頃の眼に映った岩国のイメージに似ています。
もう少し変えて言いますと、望郷の思いで生れ故郷の街を頭においた気がしますが、さて、いまの実際の岩国に、あれに似たような風景が残っていますものですかどうか。・・・
・・・一口に言って、言葉も場所も筋立ても凡て作り物なのですけど、書いています間に、小説中の人物が、一人一人何だか実在の人間のように思われ、泣いたり躓いたりしているような気がして来たのも不思議です。--
『おはん』あとがきより

連載が完結すると、単行本が出版され、それは大きな反響を呼びました。
第10回野間文芸賞、第9回女流文学者賞などを受賞。
その後アメリカやイギリスでも翻訳本が発売されています。